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東京高等裁判所 平成9年(ネ)4870号 判決 1998年5月29日

宇都宮市陽東三丁目二二番二〇号

控訴人

有限会社家庭教師センター

右代表者取締役

諏訪盛雄

宇都宮市陽東三丁目二二番二〇号

控訴人

諏訪盛雄

右両名訴訟代理人弁護士

山田勝昭

堀士忠男

岡山市南方三丁目七番一七号

被控訴人

株式会社ベネッセコーポレーション

右代表者代表取締役

福武總一郎

右訴訟代理人弁護士

浅岡輝彦

遠山康

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主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  事実関係

一項記載のとおり付加、訂正し、二項、三項記載のとおり当審における当事者双方の主張を付加するほかは、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」(三頁八行ないし一三頁三行)と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の付加、訂正

1  原判決四頁九行「代表取締役」の次に、「(ただし、平成七年七月一〇日以降は、唯一の取締役)」を加える。

2  同5頁三行、四行の「第二六類」を、「商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前のもの)別表第二六類「印刷物(文房具類に属するものを除く)書画、彫刻、写真、これらの附属品」」と改める。

二  当審における控訴人らの主張

1  控訴人諏訪は、「進研ゼミ」の名称を使用しておらず、三省堂と進研ゼミとを区別して説明していたものである。控訴人らの商品が被控訴人の商品であるとの混同を生じた者は、控訴人諏訪の勧誘行為によってではなく、自らの不注意により混同を生じたものである。すなわち、以下のような事情に照らしても右の事実は明らかである。

2  パンフレット(乙第四号証)には、明確に「三省堂」と記載されており、進研ゼミを主宰する福武書店ないしはベネッセコーポレーションと三省堂は、いずれも世に広く知られた企業である。そして、控訴人諏訪が商品説明をする際にはこのパンフレットを用いるのがセールスマンの常法と考えられるから、右説明の際に保護者が高校生の子と同席し、普通の注意を払って説明を聞いていれば、両者を混同することは起こり得ないことである。

3(1)  原審証人稲見明子は、教材についての控訴人諏訪の説明の際には同席せず、息子の稲見健二から同日進研ゼミの者が来訪する旨を告げられていたこと、控訴人諏訪が進研ゼミの問題が送られてくる封筒を持っていたこと等から先入観を持ち、三省堂と明記してあるパンフレットを軽視し、不注意により、控訴人諏訪を進研ゼミの者と即断したものである。

息子の健二が控訴人諏訪を進研ゼミ関係者と誤信した事実はない。

(2)  大塚和之及びその母親大塚多起子についても、事情は同様であり、教材についての控訴人諏訪の説明の場に同席しなかった多起子が、不注意により、控訴人諏訪を進研ゼミの者と即断したものである。

息子の和之が控訴人諏訪を進研ゼミ関係者と誤信した事実はない。

(3)  中野織江の母親である中野淳子は、控訴人諏訪の教材についての説明の場に同席していたと認められるが、控訴人諏訪がパンフレットを示しながら説明していたことは認めているのであるから、不注意により、控訴人諏訪を進研ゼミの者と即断したものである。

(4)  五十嵐里美の父親五十嵐博明は、三省堂教材のパンフレットを見た上、クレジット申込書の商品名欄に三省堂とあることも認識していたにもかかわず、高校生の子が進研ゼミ会員であることを控訴人諏訪が知っていたことから同人を進研ゼミ関係者と思い込んだという先入観と控訴人諏訪の教材についての説明の話の途中から参加した不注意により、進研ゼミ教材と三省堂教材の区別についてより明確な認識を持ち得なかったものである。

4  被控訴人に問い合わせ等をした者の数は決して多くはない。すなわち、平成七年における被控訴人に対する進研ゼミ会員からの問い合わせ件数が甲第七〇号証(平成7年発生の当案件に該当すると考えられる営業妨害)記載のとおり、一月から七月まで月数件(三月はゼロ)、八月に九件、九月、一〇月に各二〇件を超えるとしても、平成七年時点での福島県、茨城県、栃木県及び埼玉県における進研ゼミの高校一年生の会員数は、三万人を超えていたものであり、控訴人諏訪が電話をかけたり、自宅を訪問した人の数も相当数に及んだものである。右の控訴人諏訪が訪問等をした人数を分母とし、前記問い合わせの人数を分子としてその割合を考えれば、被控訴人に問い合わせ等をした者の数は恒常的に相当数に上っていたとの事実がないことは、明らかである。

5  甲第一〇一ないし第一〇九号証(ミス・トラブル対応経過報告書)は、内容虚偽の文書である(乙第六、第七号証の各一、二、-大里まさ子及び染野きみいの各確認書)。

三  当審における被控訴人の主張

1  控訴人らの右主張事実はいずれも争う。

2  控訴人諏訪が三省堂と進研ゼミを主宰する福武書店ないしはベネッセコーポレーションとを関連付けた説明をしていることは、「進研ゼミの者です。今度社名が福武から三省堂になります。」(甲第三一号証)、「進研ゼミとサンセイドウはもともと同じものである、と業者は説明」(甲第五五号証)、「三省堂は福武書店の子会社である」(甲第六四号証)との聴取書の記載からも明らかである。

3(1)  稲見明子は、控訴人諏訪の説明内容を明確に証言しており(原審証言調書一五一項)、その説明の場に同席している。

また、営業活動においては、商品の説明以前の顧客に初めて接する際にいかに不信感を抱かせることなく接することができるかが重要である。控訴人諏訪は、進研ゼミという名称を使用して顧客を安心させることにより、右の問題を解消しているのである。

(2)  他の進研ゼミ会員及びその保護者についても、控訴人らが指摘するような不注意は存在せず、控訴人諏訪の進研ゼミの者と名乗っての勧誘行為により混同が生じたものである。

4  控訴人は、控訴人に問い合わせた人数が多くない旨主張するが、甲第七〇号証の数字は被控訴人に対する問い合わせのうち、控訴人諏訪の営業活動に関するものであることが特定できたものだけを抽出したものであり、いわば、氷山の一角にすぎないものである。したがって、甲第七〇号証記載の問い合わせ件数と会員数の比較のみをもって、被控訴人に問い合わせた等をした者の数がさほどのものではないと主張することはできないものである。

5  甲第一〇一ないし第一〇九号証は、虚偽の文書ではない。被控訴人には、あえて虚偽文書を作成した上提出しなければならない必要性は全く存しない。

第三  証拠

原審及び当審における書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらの記載を引用する。

第四  当裁判所の判断

一  次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由「第三当裁判所の判断一及び二」(一三頁五行ないし三四頁末行)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一三頁九行及び一四頁四行の各「需用者」を、「需要者」と改める。

2  同一五頁二行「第一三」から四行「第六四」を、「第一三、第一四、第一六ないし第一八、第二二ないし第二七、第三〇、第三一、第三四、第三八、第四〇、第四一、第五一、第五五、第五八ないし第六四」と改める。

3  同二八頁六行の「里見」を「里美」と改める。

4  同二八頁六行「保護者に対しても、」の次に、「それぞれ平成六年五月一七日及び同年八月一九日に、」を加える。

5  同三〇頁四行ないし八行を、「したがって、控訴人らは、エスコム高校ゼミほかの学習教材を販売する当たり、故意により、「進研ゼミ」という被控訴人の商品等表示と同一の表示を使用してものということができ、この使用により、エスコム高校ゼミほかの学習教材が「進研ゼミ」の作成、販売に係るものとの混同を生じさせることは明らかであるから、控訴人らの右使用行為は、不正競争防止法二条一項一号にいう「不正競争」に該当し、同法四条本文の損害賠償の要件も満たすと認められる。さらに、控訴人らの右使用行為は、民法七〇九条の不法行為の要件も満たすと認められる。」と改める。

6  同三一頁五行の「被告会社」から、六行の「経営している会社」までを、「控訴人会社は控訴人諏訪が唯一の取締役として経営している有限会社」と改める。

二  当審における控訴人らの主張に対する補足説明

1  控訴人らは、当審において、被控訴人提出の甲第一〇一ないし第一〇九号証(ミス・トラブル対応経過報告書)は、内容虚偽の文書であると主張するが、原審証人高石数雄の証言によれば、右甲号証は各通報者との対話内容を正確に記載したものと認められる。控訴人ら提出の乙第六号証の二(大里まさ子確認書)及び乙第七号証の二(染野きみい確認書)は、原審での審理が進行していた平成八年一〇月段階でその主要な部分が作成されていたにもかかわらず、原審で提出されていないこと、被控訴人に通報した内容について、被控訴人と訴訟中の控訴人諏訪が弁護士を介することもなく自ら事情を尋ねるために通報者を訪れた場合、訪問を受けた者は相当困惑すると考えられること、乙第六号証の二と乙第七号証の二は、別人による作成にもかかわらず、文章が極めて類似していること等の事情にかんがみれば、これらの記載内容の信用性は疑わしいといわなければならない。したがって、この点の控訴人らの主張は採用することができない。

2  控訴人らは、当審において、平成七年における被控訴人に対する進研ゼミ会員からの問い合わせ件数はさほど多いものではない旨主張するが、控訴人らが認める八月に九件、九月、一〇月に各二〇件を超える問い合わせ件数は、控訴人らが「進研ゼミ」を使用して他社の学習教材の販売を行ったことを推認する一事情とするには十分な件数であるといわなければならず、この点の控訴人らの主張も採用することができない。

3  なお、控訴人らの当審における主張のうち、控訴人らは三省堂と進研ゼミとを区別して説明しており、「進研ゼミ」の名称を使用しなかったとの主張に対する判断は、前記(原判決一五頁一行ないし三〇頁三行)に判示するとおりであり、この点に関する控訴人らの主張は到底採用することができない。

第五  結論

以上のとおりであって、被控訴人の請求は、原判決主文掲記の限度で理山があるから認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴は理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年四月一四日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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